ScienceMagazineのローカライズができるまで

ScienceMagazineのローカライズはAAASの悲願でした。日本でローカライズをしてくれる組織を探していたのは、今から20年ほど前です。すでに、日本では湯川秀樹博士や朝永振一郎博士、江崎玲於奈博士、福井謙一博士、利根川進博士と多くの科学者の受賞者を排出していましたが、一時期から日本人の論文投稿が少なくなっていたようで、日本人の論文投稿を増やしたいと願っていたようです。まだ、日本では、カール・ケイ氏が個人で日本の事務所を開設していたような状況でした。

私は当時田辺製薬に勤めていて、ドクター向けのWebサイトを立ち上げる構想を練っていました。まだその頃は、企業サイトもほとんどなかった時代です。MRに変わる新しい情報提供手段としてインターネットに目をつけていた時、当時の三和銀行の紹介で、(株)大伸社の上平豊久氏が訪問されました。何回かお会いしたとき、AAASがScienceMagazineのローカライズ先を探しているという話を伺い、これはキラーコンテンツになると直感した私は、上平氏に必ず役員を説得するので他社に話さないでほしいとお願いしました。それから1年、何回となく企画書を作り直して説得した結果、役員会でGoが出ました。 Scienceの翻訳は、村瀬澄夫先生(当時 信州大学 医療情報部教授、現在 むらせシニアメンタルくりにっく院長)が統括の元、翻訳会社の(株)アスカコーポレーションが実務を受け、実際の翻訳作業は京都大学大学院のそれぞれの専門の院生がやってくれました。村瀬先生がその週の論文から翻訳候補の論文を2、3本を選び、abstractを翻訳するという流れです。当然、世に出ていない概念や新しい言葉など、大学院生のみなさんの苦労は相当なものだったと思います。論文のタイトルは全て翻訳していたと記憶しています。

1998年、田辺製薬のWebサイトは、このscienceの目次の日本語化と、毎週2,3の医薬に関連するabstractの訳の掲載を始めました。もちろんのこと、大きな反響をいただきました。今まで英語でしか読めなかった論文のタイトルだけでも目を通すことができるようになったのです。抗菌薬インターネットブックのコラムのところにも書きましたが、科学技術庁の「科学者が見るべき100のホームページ」に「抗菌薬インターネットブック」と並んでこの「Science日本語版」も紹介されました。

実際の翻訳は次のように流れました。AAASから2週間前に日本の(株)アスカコーポレーションに原稿が届き、これを村瀬澄夫教授が見て、abstractを日本語訳する論文を選定します。その後、翻訳を行い、医薬事業本部にて最終チェックを行いました。(株)アスカコーポレーションと医薬事業本部のチェックはメーリングリストを使って行っており、このやり取りは私もウォッチしていました。訳が確定したら、原稿は(株)大伸社へ送られここでHTML化されます。そして、金曜日の午後に(株)大伸社からワークサーバへ上げられ、ここで私の方で、訳が正しく反映されているか?、HTMLは正しいか確認します。その後、アメリカのオリジナルのSciencemag.orgが更新されたのを確認したのち、こちらの日本語版をアップロードします。

20世紀から21世紀をまたぐこの時期、遺伝子解析のニュースが毎日のように流れていて、当然、Scienceもショウジョウバエの論文が毎週のように載っていた時期です。科学がものすごいスピードで変化していく様をツブサにみることができました。そして、日本人の論文投稿も徐々に増えてきました。圧巻は、イトカワを特集した号です。ほぼ日本人研究者の論文で埋め尽くされました。さらにその後の日本人の科学分野でのノーベル賞も多くなったことはご存知のことと思います。

私自身は、そのきっかけを作っただけですが、それでも日本の科学に少しだけですが、貢献できたことを誇りに思っています。

ScienceとNatureの違い

NatureとScienceはご存知の通り、この2誌に論文が載るとノーベル賞が近づくと言われる権威のある雑誌ですが、この2誌は全くその成り立ちが違います。NatureはイギリスのMacmillan Publishers Limited,が発行している雑誌です。そのため、大きな書店や専門書店に行けば購入することができます。一方、Scienceはトーマス・エジソンが興した米国科学振興協会(The American Association for the Advancement of Science(AAAS) (とりぷるえーえす))が発行している会員誌です。そのため、書店では売っておらず、会員になると郵送されてきます。

よく間違えられるのは、日経BP社が発行している「日経サイエンス」ですが、全く別物です。当時、日経BP社もAAASにScience誌のローカライズを交渉していたそうです。宮田満さんは自社で契約できなかったことが相当残念だった事をこぼしておられました。

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