日本の医療ICTは周回遅れ
昨年の暮れに塩崎厚生労働大臣の記者会見で、大臣がICTという言葉を使われた時に、非常に違和感を感じました。これは、第2回未来投資会議で「医療・介護分野に置けるICT活用」の発表を受けてのことだど思うのですが、それ以上にこの資料の中を見ると、「ICT・AI等を活用した医療・介護のパラダイムシフト」という項目があり、さらに目眩がしそうになったことは言うまでもありません。その後、医療関連ではICTという言葉が頻繁に出てくることに気がつきました。先月ある大手電機メーカーの医療関連の催しに出向いた際も、ICTという言葉が頻繁に出てきましたし、講演でもICTという言葉が出てきました。
この違和感は、ICTという言葉、概念が1990年代に使われてきたものであり、それはまさに第3次産業革命の後半に出てきたものです。今更説明する必要もありませんが、定義としておさらいしてみるとITは情報技術そのものを指すものであるのに対して、ICTはその利活用を指していると言われています。日本では「e-Japan戦略」が策定されたのが2001年です。その後、2005年には総務省の「IT政策大綱」が「ICT政策大綱」に改称されて一般的ICTが広まった経緯があります。その本質はITを利活用することによる、人と人、人とモノを結ぶコミュニケーションです。では、第4次産業革命はいつから始まったか?それは、ドイツが2011年に「Industry 4.0」を産業改革プロジェクトとしてスタートしたことによると一般的に認識されています。この第4次産業革命の本質はAIやIOTを活用した産業構造の変革です。特に製造現場におけるAIを使って製造工程の管理などがその典型例でしょう。
話を戻して、私が抱く違和感というのは、医療産業を含めた医療業界では、第3次産業革命から第4次産業革命までの長い期間を跨いで変革が起こっているということです。実際のところ、未だ、電子カルテも導入していない医療機関は非常に多く、紙のカルテを使っている現場と、次回詳しくご紹介しますが、英国のNHS(National Health Service)がテスト導入しているAIを使った看護サービスとその差は歴然としています。一般の業種であれば、同じタイミングで技術革新が進んでいき、技術革新に乗り遅れた企業は市場から消えていくしかありません。ところが、医療業界では、どれほど技術革新に乗り遅れても困ることがありません。
よく医療業界はIT化が遅れていると言われますが、乗り遅れても問題はなかったということに起因するものと思われます。具体的な例をご紹介しましょう。皆さんも気づいておられることと思いますが、大抵の医療機関、特に診療所では、未だ現金のみの支払いです。しかも支払いの段階になるまで幾らかかるか分からないので、患者の立場に立てば、クレジットカードが利用できたらいいのにと思っている人は多いと思います。また、私の知っている医師は、過去に遡ってカルテを見ても、手書きならその時の状況が思い出される。だから電子カルテは不要であると仰っておられます。さらに、職員の給与が現金払いという所も未だあります。
ただし、この傾向が続くことはないでしょう。その一つに、医療機関間のネットワーク化が進むことがあります。この4月から日本医師会が認証局をスタートさせることからデータのやり取りも本格的になります。ネットワークに入れない場合、患者数が減ることになります。例えば、がん拠点病院で乳がんの手術をした後、自宅近くの乳がん専門クリニックで経過を診てもらう場合、拠点病院は患者データーをやりとりできるクリニックを推薦することは想像に難くないでしょう。二つ目に前回お話ししたように、健康、医療、介護に垣根がなくなってきてシームレスなサービスが提供できなければ患者が来なくなる可能性があります。例えば、スポーツクラブでの運動量をクリニックでの参考資料にしたりすることも今後起こってきます。三つ目に、おっとこれはここに書くには微妙な問題があるので機会があればお話しすることにしましょう。
では、現在の医療業界でのテクノロジーのトレンドキーワードは何か?この2月にフロリダ州オーランドで行われたHIMSS2017(Healthcare Information and management systems society)で話題になったキーワードを最後に上げておきましょう。それは、IoT , telemedicine , AI , interoperability , value-based- care , population health , Machine learning , blockchain , patient experience , cybersecurity , AR , VR などなどです。