医療のIT化はなぜ進まないのか?コストと投資の違い
つい先日、HEALTH2.0のイベントが日本で開催されました。Health 2.0は、ヘルスケアとITの融合領域であるデジタルヘルスに関するイベントで、Health 2.0社が2007年に立ち上げました。おそらく多くの人が想像するのは、病院などのIoT化などが進んでいくイメージかと思いますが、実はあまり進んでいません。これをお話しする前に、病院の一般企業でいうところの利益は何かを知らなければなりません。病院などは診療や手術や検査などの人的サービス提供に対して診療報酬という形で報酬が支払われる構造になっています。これを現物給付と言います。例えば、初めて診察を受けたなら、初診料という報酬がかかり、1割から3割負担を窓口で患者は支払い、残りの7割から9割は私たちが支払っている健康保険から支払われます。
「血糖値スパイク」という言葉を聞かれたことがありますか?最近NHKスペシャルなどで大きく放映されて糖尿病の患者さんや血糖値が気になる人に衝撃を与えました。この放送の中でイギリスのアボット社が開発した「FreeStyle Libre」という血糖測定器が出てきました。これは非接触の血糖測定器で測りたいときにいつでも手軽に血糖値を測れるものです。しかしながら放送でも言っていたように、研究のために特別に使われていてまだ医療機関では使えないと注釈を入れていました。
これにはちょっとしたカラクリがあります。それはこの「FreeStyle Libre」が保険適用になっていなかったという理由があるからです。この放送の前からも試験的に病院やクリニックでも使っているところは多少あったのですが、それはあくまでも「試験的」な使い方なのです。実際にこれを患者さんに使ってもらったとしても、保険適用になっていなかったら、患者さんからお金をもらえないからです。(現在、FreeStyle Libre Proは12月1日から保険適用になりました)お金をもらえなかっら、患者さんに使っても儲けにならないですね。だから使わないというだけです。
医療機関は、ある医療機器を購入してそれを患者さんに何人使えば、元が取れて、その後、利益なるかを考えます。保険適用されれば、この2万円弱の血糖測定器を購入して患者さんに使ってみようと思うわけです。MRIなどの高額な医療機器も何人の患者さんのMRIを年間撮れば、初期費用と年間メンテナンス費用が賄えるかというところが重要な点です。
ですので、単にIoTにお金をかけたとしても、これが保険適用されていなければ、持ち出しになるわけです。仮に、IoTにお金をかけて患者さんがそのお金を上回るだけの集客ができたとしたらお金を払う価値があるのですが、この見通しを立てるのは至難の技だと言わざるを得ません。
つまり、医療機関がお金をかけるのは、それを支払っても保険で回収できるかが重要な点で、この点で彼らはこれを投資と呼ぶわけで、保険で回収できないのはコストとしてしか捉えることができないわけです。
もっと身近な、スマホで診察の予約を取りたいと思うのは普通の人は思うわけです。美容室などもネット予約って流行っていますね。でも、医療機関はよっぽどお金を出してもなんとか集客したい(その確信があるわけではないが)と思うところは多少の出費をしてもするかもしれませんが、広く普及することはありません。また、窓口でのクレジットカードの支払いも然りです。かなり大きな病院ではこれらの出費は、逆に人的コストの削減という捉え方で投資と考えますが、多くの医療機関は人的コストの削減まで投資で回収できないのです。
さて、話を戻して、HEALTH2.0のような動きは、今の国民皆保険制度の元では進みにくく、仮に進んだとしても大変労力と時間を要することになります。だからと言って可能性がないかというと、そうではありません。国はいかに医療費や介護費を減らすかを躍起になっています。つまり病気にならないステージでのビジネスでは、大いに可能性があると思います。フィットネスなどに代表される健康産業などはその端的な例でしょう。特に、今の若い世代は、特に介護の悲惨さを様々形で見ています。こうなったら大変だと思っています。また、喫煙も若い人は圧倒的に減ってきています。Health2.0はこのようなステージで大きく成長することになるでしょう。ゆめゆめ、医療機関に対する医療機器は射程に入れないようにしなければなりません。