CCRCは高齢者の年金と資産を当てにした非生産ビジネスモデル
CCRCという言葉を聞いたことはあるでしょうか?Continuing Care Retirement Communityの略で、官邸の日本版CCRC構想有識者会議 では、「東京圏をはじめとする高齢者が、自らの希望に応じて 地方に移り住み、地域社会において健康でアクティブな生活を送るとともに、医療 介護が必要な時には継続的なケアを受けることができるような地域づくり」 と定義づけています。また、その意義として、高齢者の希望の実現、地方へのひとの流れの推進、東京圏の高齢化問題への対応の3つの点をあげています。高齢者が実際に地方への移住を希望しているかどうかは、アンケート手法によって相当開きがあることがわかっていますが、要は、高度成長時代に都市部に集中した人たちが今や高齢者となって、医療費や介護など負担増、さらにこれを支える医療従事者、介護従事者の不足を解決するために、地方への移住を促して、需要と供給をバランス化しようというのが狙いであることは明白です。
このCCRCを推進するために、内閣府地方創生推進室は「地域活性化・地域住民生活等緊急支援交付金」を創設しています。ただし、この交付金はCCRCだけのものではなく、ベンチャー支援などいわゆる地域活性の事業に交付しています。CCRCに限れば、260の自治体が既に実施しているか、または計画しているようです。(日本版 CCRC 構想有識者会議委員 松田智生氏 )
以下の表は、大和証券株式会社が日本版CCRC構想有識者会議用として出した資料の抜粋です。
これを見るとわかるように、移住者はCCRCの居住空間を購入するか、賃料を払うことになります。このお金が事業者やREITに回ってくるのが根本的なビジネスモデルです。しかし、よく考えてみたら、CCRCをやろうとする地方自治体にこのような事業者がいるはずもなく、結局は首都圏の事業者やデベロッパーが儲かることになるわけです。さらに、移住者はそれ自体、既にリタイアしているので新たな経済的価値を生むことはありません。結局、彼らが払うべきお金は、購入するにしても賃料を払うにしても、彼らの現在持っている資産及び、これらから給付される年金しかありません。地方自治体にすれば、CCRC施設(ヘルスケア施設、病院、介護施設など)が増えたりしますが、それは、自治体の中での資産の移動だけであって、自治体の外からの資本の流入はないことになります。これでは、自治体として足腰を強くすることはできないのは明白です。あえて、外部流入としてあげるとすれば、地方交付税が増えることくらいでしょう。
高度成長期時代を生きたきた世代はお金を持っています。彼らのお金(休眠資産)を経済の流れに乗せること自体は悪いことではないし、有効活用することは良いことでしょう。しかし、高齢者の世代の中で経済が回ること自体に疑問を感じないわけにはいきません。今後、高齢者が増えていくにしても、団塊の世代がいなくなった時に、日本を支える地力はどこにあれば良いのでしょう。50年先、CCRCは必要あるでしょうか?今の高齢者問題に目が行き過ぎるあまり、次の時代への投資がなければどうなるのでしょうか?
私は先の投稿でも若い働き手にもっと医療費を回して、働きやすい環境が必要だと書きました。若い世代までが今の高齢者のために働くことはナンセンスであるという考えです。
さて、副題に「松江市のRuby」をあげた理由がお分かりいただけるのでないでしょうか?知らない人のために簡単にいうと、Rubyとは日本で開発された(まつもとゆきひろ氏が開発した)プログラミング言語であり、国際規格に認証された有名な言語です。まつもとゆきひろ氏が松江市出身ということもあり、松江市はRubyを使った町おこしをしており、多くの若者が松江市に集っています。さらに学校でもRubyを教える授業があり、今後、「Rubyのまち 松江市」として新たな地域ブランドを創生する取組みを行なっています。情報サービス業として取引流入額は2013年には143億円と年々増加傾向にあるようです。(経済産業省の資料による)
Ruby一つで大きな効果を生むということではなく、これをテコに情報産業の育成に取り組んでいく、若い人たちが松江市に移住してきてそこで新しいビジネスを起こして、松江市外からの資金を増やしていく、これこそ地方自治体の地力であると言えるでしょう。CCRCが悪いのではなく、CCRCを動かす原資を高齢者の資産に頼っていること自体、日本の創生に直結していないことに憂慮するとともに、これから日本を作っていく人たちにどうやって高齢者の資産を回すことができるか考える必要があるでしょう。